翻訳|measles
麻疹ウイルスの感染によっておこる急性発疹(ほっしん)性感染症で、感染症予防・医療法(感染症法)では5類感染症・全数把握疾患に分類されている。俗に「はしか」とよばれるが、三日ばしかは別の疾患(風疹)である。麻疹はほとんどの人が一度はかかる重症の伝染病として古くから知られ、昔は「命定め」とよばれて恐れられたが、1978年(昭和53)10月に定期予防接種の対象疾患となり、患者の発生が著しく減少した。しかし近年、麻疹患者数はふたたび増加傾向にある。2007年には10~20代を中心に全国的な流行が発生、多くの大学や高校が麻疹の流行で休校となった。2008年1月から、麻疹の発生動向調査方法が、従来の定点把握から全数把握に変更され、また定期予防接種の対象も拡大されるなど、麻疹排除へ向けた取組みが強化されている。
[柳下徳雄]
麻疹ウイルスに対する人類の感受性は高く、未感染者が感染の機会に遭遇すると、年齢に関係なく90%以上が発病するほどであるが、一度かかると終生免疫が得られる。したがって、大多数の者が小児期にかかり、年長児や成人が罹患(りかん)することはまれである(ただし、近年は成人の患者数も増えている。何らかの事情で予防接種を受けられなかった、予防接種を受けたが免疫力が低下した、などの原因が考えられている)。また、麻疹にかかったことのある母親から生まれた乳児は生後3か月までは罹患しないし、生後4~6か月の間は罹患しても軽症に経過するが、7か月以降はかかりやすい状態になり、4歳までは罹患率がもっとも高い。2、3年ごとに流行がみられ、月別では4~6月に患者数が多くなっている。
[柳下徳雄]
患者の咳(せき)、くしゃみ、会話などによって直接飛沫(ひまつ)感染し、呼吸器粘膜で増殖する。麻疹ウイルスは発疹の出る3、4日前から散布され始め、発疹が出てから4日後まで続く。感染力は発病初期に強い。学校保健安全法施行規則で学校感染症に指定されており、麻疹と診断されたら解熱した後3日を経過するまで幼稚園や学校を休ませなければならない。この場合は出席停止で、欠席扱いにはされない。
[柳下徳雄]
潜伏期は11日前後で、症状は比較的定型に経過することが多く、前駆期(カタル期)、発疹期、回復期の3期に分けられる。
[柳下徳雄]
発病は38℃前後の発熱で始まり、咳や目やになどかぜに似た症状を呈するが、乳幼児では嘔吐(おうと)や下痢がみられることもある。発病後2、3日で口腔(こうくう)粘膜に特有なコプリック斑(はん)が現れる。すなわち、臼歯(きゅうし)に対応する部分の粘膜面に数個から十数個の粟粒(ぞくりゅう)大の白い小水疱(すいほう)がみられる。熱は3日くらいで下がるが、まもなく再上昇して発疹期に入る。
[柳下徳雄]
発病後4日目ごろから顔や胸に発疹が現れ、腹や腕から全身に広がる。最初はノミに刺された程度の赤い小斑点が散在し、しだいに大きくなって隣り合った発疹が融合し、大小不規則な形となる。また、発疹と発疹の間にはかならず健康皮膚面が残存しており、消退後には褐色の色素沈着(しみ)を残すのが特徴である。熱も日ごとに上昇し、38~39℃の高熱が稽留(けいりゅう)する。この発疹期は3~5日間で、高熱や発疹のほか、咳や目の充血もひどくなり、患者の衰弱が目だつが、普通発病7日目ごろが峠で、以後急速に回復に向かう。しかし、合併症を併発したり異常経過を示すことがあるのも、この時期からであり、注意する必要がある。
[柳下徳雄]
通常、発病後8日目ごろから高熱も下がり、発疹も出現順序に従って消退し、だいたい7~10日間で消失する。このとき、細かい糠(ぬか)のように皮がむけ、皮膚に褐色のしみを残すが、しだいに消える。
[柳下徳雄]
発疹期には全身の抵抗力が弱まって合併症をおこしやすくなる。もっとも多くみられるのは肺炎で、麻疹で死亡する患者の多くはこの肺炎併発によるものである。このほか、脳炎や中耳炎をはじめ、心筋炎、仮性クループなどがみられることもある。発病後8日目を過ぎても解熱しなかったり、また解熱後に再発熱するような場合には合併症が疑われる。
[柳下徳雄]
虚弱児の場合には発疹期に中毒症状が強く現れ、けいれんや心臓衰弱をおこし、発疹が急に薄れて死亡することがある。俗に「はしかの内攻」とよばれている。また、麻疹にかかると結核が悪化することがあるので、ツベルクリン反応が陽転して1年間は麻疹にかからないように注意する。また、麻疹が治って数年後に、まれに亜急性硬化性全脳炎をおこし、知能障害、筋硬直、痙性(けいせい)麻痺、無言無動の状態となり、死亡することがある。
[柳下徳雄]
特効薬はなく、予後を左右する合併症の予防に抗生物質を使うほか、対症療法を行う。高熱の場合には氷枕(まくら)を使い、着衣や室温にも注意して快適な温度を保つほか、安静を守る。食欲不振に陥りやすいので、消化のよい少量でも高カロリーの食事を与え、水分は十分に補給する。
[柳下徳雄]
定期予防接種は、麻疹の場合ほかのワクチンと異なり、予防接種の通知に指示されている開業医か病院で個別に行われる。従来、予防接種法で定められた麻疹ワクチン接種は、生後12か月から90か月までの間に行うことになっていた(実際には生後12か月から24か月の間に行うのが標準とされていた)。しかし、麻疹患者数が増加傾向にあることから法律が改正され、2006年度(平成18)より、第1期の初回接種は生後12か月から24か月までの間に1回、第2期の追加接種は5歳以上7歳未満で小学校就学前の1年間に1回、麻疹風疹混合(MR)ワクチンを計2回接種することとなった(2006年6月以降は単独での定期接種も認可。ワクチンは弱毒性生麻疹ワクチン)。さらに2007年には、前述したように10~20代を中心とする流行がおきたため、「麻疹排除計画」が策定され、2008~2012年度の5年間の時限措置として、中学1年生(第3期)および高校1年生(第4期)の2回目接種を追加した(ただし麻疹にかかったことのある者、または麻疹予防接種を2回行っている者は対象外)。
副反応として接種後5~14日の間に発熱することがある。しかし、普通1~3日で平熱に戻る。また、そのころに軽い発疹が出る場合もあるが、これも2、3日で自然に消失する。さらに、発熱とともにけいれん(ひきつけ)をおこすことがある。このけいれんは数分で治まるが、以前にけいれんをおこしたことのある子供の予防接種は医師に相談する必要があり、1年以内にけいれんをおこしたことのある子供は接種をやめる。
なお、麻疹患者と遊んだり家族内に麻疹患者が発生したときなど、緊急の予防処置が必要な場合にはワクチンの接種ではまにあわないので、γ(ガンマ)‐グロブリン(ヒト免疫グロブリン)を注射して予防する。また、病気などで接種を受けられなかった子供は、流行期にγ‐グロブリンを注射しておき、接種が受けられる時期まで待つ方法もある。γ‐グロブリンの効果は1、2か月くらいしかないが、この効き目がまだ残っているうちにワクチンを注射するとワクチンの効果が出にくくなるので、3か月くらいの間隔を置く必要がある。
[柳下徳雄]
パラミクソウイルスの一般性状を有する麻疹の病原体で、ヒトとサルに病原性をもつ。RNA1本鎖のウイルスで、エンベロープを有し、56℃、30分で不活化される。麻疹患者の唾液(だえき)、痰(たん)などのほか、発疹期には尿にも存在し、リンパ球の増加と白血球減少がみられ、リンパ節や扁桃(へんとう)などには多核細胞が現れる。
[柳下徳雄]
麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性のウイルス感染症です。感染力が極めて強く、死亡することもある重症の感染症です。日本を含めた世界保健機関(WHO)西太平洋地域では、2012年までに麻疹を排除することを目標に決めています。
空気感染、
10~12日の潜伏期ののち、発熱で発症します。発熱期は
発疹出現前後1、2日間に、口腔粘膜(
肺炎、中耳炎を合併することが多く、1000人に0.5~1人の割合で脳炎を合併します。また、麻疹ウイルスに感染後、とくに学童期に発症することの多い中枢神経疾患として、
特徴的な臨床症状で診断されることがほとんどですが、最近はウイルス学的な検査診断が必要と考えられています。急性期に採血し、麻疹に特異的なIgM抗体を証明することで診断されます。
急性期の血液や咽頭ぬぐい液、尿から麻疹ウイルスを分離したり、RTPCR法で麻疹ウイルスの遺伝子(RNA)を検出することでも診断が可能です。この検査は全国の地方衛生研究所(地研)で実施されており、麻疹を疑った場合は、保健所を通して地研に臨床検体を搬送します。地研での実施が困難な場合は、国立感染症研究所で実施します。急性期と回復期に採血して、麻疹ウイルスに対するIgG抗体が陽性に転じたことで診断する場合もあります。
2008年1月1日から麻疹は、全数報告の感染症となり、診断したすべての医師が最寄りの保健所に1週間以内に(できる限り24時間以内に)届け出ることが義務づけられました。
ワクチンを接種して発症そのものを予防することが最も重要です。接種時期は、1歳になったらできる限り早く接種することが望まれます。日本では、2006年からMR(麻疹・風疹混合)ワクチンが広く使用されるようになり、2006年6月からは、1歳児と小学校入学前1年間の幼児を対象とした2回接種制度が始まっています。これらの時期に受けるワクチンは、定期接種として通常、無料で接種が受けられます。
また、2007年の全国的な麻疹流行は10~20代が中心であったため、国の麻疹対策が大きく変わりました。2008年度から5年間の時限措置として、10代の者への免疫強化を目的に、中学1年生と高校3年生相当年齢の者に対する2回目の予防接種(原則としてMRワクチン)が、予防接種法に基づく定期接種に導入されました。
発症してしまった場合はウイルスに特異的な治療方法はなく、対症療法だけとなります。肺炎、中耳炎を合併することも多く、入院率は約40%といわれています。
予防(ワクチン)に勝る治療はありません。ワクチンを接種する前に麻疹の患者さんと接触したことが判明した場合は、接触後48時間以内に麻疹含有ワクチンを接種する、あるいは接触後5日以内に
発症してしまった場合は、早急にかかりつけの小児科、成人の場合は内科あるいは皮膚科を受診し、入院の必要性を含めて対応を相談することが必要です。
多屋 馨子
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…麻疹ともいい,届出伝染病の一つ。非常に感染力の強い疾患で,だれでも一度はかかると考えられている。…
※「麻疹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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